3.第57回全日本アマチュア自転車競技選手権大会
1988年ソウル五輪選考会


1971年(昭和46年)5kmサーキットコースが日本サイクルスポーツセンターに誕生してから17年。実業団・学連・JACF(日本アマチュア自転車競技連盟)の主要大会が数多く開催されてきているが、距離120㎞ のレースは始めてであった。殆ど平坦路のない距離の短い山岳コース、1周回のラップタイム平均時速も国内トップクラスの選手の競走でも35km以上は連続では出ない。登坂の負荷が大きく選手を悩ましている。

世界最大の競技大会であるオリンピック代表選考会のコースとして始めての全日本アマチュア自転車選手権大会ロードレースは6月13日スタートした。
エントリーしている選手は、昨年の国内主要大会で優勝、上位入賞の実績のある選手が全員顔を揃え、本年度最大のレースとなった。主な選手を記しておく。後年、ロードで活躍する選手を含め参考とされたい。

選手名 所属 前3年成績
大野直志 東北学院大 1987学個①、全ア⑧ インカレ③
沼田裕一 東北学院大 1988チャレンジサイクル④
菊田潤一 中央大学 1986インカレ③、国体②
清野慶太 日本鋪道 1987世界選代表(在欧州)
円谷義広 日本鋪道 1988国際ロード名古屋① 総合②
鈴木光広 ブリヂストン 1987T・北② 全ア③、東実①
三谷寛志 ブリヂストン 1987T・北St①、山岳①
藤田晃三 ブリヂストン 1987東北ステージレース⑥ 全実Po③
秋山芳久 ブリヂストン 1987東実④、1986実棚①、全実③
浅田 顕 ブリヂストン 1987東実③、1986実棚③、全実④
大石一夫 ボスコR 1988東実①1987国体①、東実②
大門 宏 ボスコR 1986全ア③、Asia④、際東③
橋詰一也 ボスコR 1987全ア⑦、西実③
高橋松吉 ボスコR 1988国際ロード総合①、1987T・北① 全ア②
山田隆博 ボスコR 1987際大②、1986都③
大野直志 東北学院大 1987学個①、全ア⑧、インカレ③
沼田裕一 東北学院大 1988チャレンジサイクル④
菊田潤一 中央大学 1986インカレ③、国体②
三浦恭資 シマノR 1986、1987全アマ① 1986都①
岸原 薫 シマノR 1987全ア⑥、1986全選③
千原宋之 シマノR 1986国体少年の部①
上坂卓郎 モリ工業 1988国際ロード東京③
館 正成 モリ工業 1987国体少年の部①
安原昌弘 モリ工業 1987西実Po①、1986西実①
佐藤 稔 山梨レーシング 1987国際ロード大阪④
滝川一夫 山梨レーシング 1987国体③1986東実③、国際ロード大阪③
安藤康洋 宮田工業  
大原 満 愛三工業  
中根賢二 愛三工業 1987国体⑥
鉄沢孝一 新家工業  
稲垣 昇 明治大学  
石黒誠司 パールイズミ  
藤野智一 なるしまフレンド  
村岡 勉 マエダ工業 1988国際ロード大阪④
加藤裕一 山崎運輸 1985インカレ① 1987世界選代表
江原政光 法政大学  
川崎正志 ナショナル自転車  
鳥屋尾恵始 ナカガワレーシング 1988琵琶湖国際⑪1980国際ロード大阪②
胡井良太 法政大学 1988国際ロード大阪②、1987都⑥
今中大介 大分大学  
佐々木晃雄 法政大学  
橋川 健 千葉柏高 1988東実⑤ チャレンジA-2①
徳竹隆幸 三連勝 1988東実③ チャレンジA-2

※チーム名は1988年当時の所属です。
T・北=ツール・ド・北海道 全実=実業団選手権、実東・西=東西実業団ロード 実棚=実業団棚倉 Asia=アジア大会、都=都道府県対抗 Po=トラックポイントR 全選=全日本選抜ロード


(五輪代表選考会レース経過)
※ 日本CSC/5kmコースを正周りで走行

3名の代表が選考されるレースは、好天気に恵まれ8時に男子がスタートした。167名がエントリーであった。スタート直後の一号橋に向かって急な下りのため早いスピードであっという間に視界から消える。

この下り勾配はこのコースの中でもゴール前の約200mの直線からの延長で最も道幅の広いところである。百数十のスタートでも全く問題ない。下りは普通にペダルを回しても50km以上のスピードになる。まして国内トップクラスの選手の競走での走りでは70~80km以上はまちがいなく出ていたスピードであった。

120kmの競走で初回はそれほどペースアップがないと思っていたが、1周回のラップを見て時計がおかしいのではないかと一瞬疑った。この回のラップは7分50秒(38・2㎞/h)である。開場以来、幾多のレースが行われてきたが、このレースの距離より短かった過去のレースでも7分台は出たことがない、私の記録帳では周回新記録である。ラップを取った選手は佐藤稔(山梨)。昨年の韓国でのアジア大会の代表選手さすがトップクラスの選手のレース大集団での通過はすごかった。
「このスピードでは早い回に遅れる選手が多く出るな」
「チャンピオンレースなので早い回に集団を小さくして強者同士のレース展開にもっていくようだな」
「有力チームの集団コントロールが長丁場のレースでどのように決められるか見ものであるな」
「このコースは実業団選手選手権大会の行われている常設コース、過去の実績から山岳に強い選手のサバイバルレースになるな」

ロードレースは1人の力では勝てないと言われているがこのコースは平地の部分が全くなく、自転車競技特有のドラフティング(先頭を走る選手の後位が風圧が少なく力のロスを防げる)が余り影響ない、選手自身の登りでの脚力が勝敗を決めることになる。しかしレースをコントロールし、チームの強者に勝たせるためにはアシストする仲間が必要でチームのメンバーが多いところが有利である。企業チームで会社の期待を背負っている実業団のトップチームのエースが有力と予想されていた。前述のエントリーメンバーから、次の選手が実績面から注目されていた。

*ブリヂストンサイクル
鈴木光広:何と言っても前回の五輪選考会で優勝して代表になれず涙をのんでいる実力者。
昨年の実績から優勝候補の一人。層の厚いアシスト陣が強み。

*シマノレーシング
三浦恭資:昨年2年連続三回目の全アマ制覇の実績。このコースで2度の優勝。五輪連続出場への企業の期待の重圧があるが実力はNo.1
大門 宏:昨年のアジア大会での走りは圧巻。今年も春先までヨーロッパ転戦。自走力は定評がありペーを掴むと単のダークホース

*ボスコレーシング
高橋松吉:昨年クラブチーム所属ながらツール・ド・北海道を勝ち健在を示す。前回の五輪代表選手で連続出場を目指す。実業団選手権4回優勝のコース。

*日直商会
森 幸春:実業団選手権優勝二連覇2回を含む5回のうち4回はこのコースで高橋選手と肩を並べる大ベテラン選手。

*その他
大石一夫:昨年サーキットで2勝の実績は有力候補この他、昨年の国体で初優勝し、本年に入りすでに東日本実業団で優勝と調子を上げ新生ボスコのエース
円谷義広:クリテリウムではあったが昨年秋の国際スーパークリテと国際ロードの名古屋大会を連勝した選手。
清野慶太:ヨーロッパでのレース経験豊富な日本大OBのロードマン。
中込辰吾:復活宮田工業のエースで一発を狙っている。
村岡 勉:市民レーサーよりフアクトリーチームへ進み頭角をあらわしつつあるの実業団選手、

これに学生界のホープ胡井良太、大野直志、江原政光、沼田雄一等の選手が勢ぞろいであった。

=周回記録面より見たレースの展開=
 
過去5年間の主要大会での周回走行速度から見て初回のスピードは最高であったが、途中のタイムを比較しても上回っており歴史に残るレースであったと思われる。

レースは早い周回で淘汰された一部の選手を除いて集団は、最後まで大崩れせず、平坦路のレースのごとく進んだ。途中、先頭を抜け出す選手の動きも随所に見られたが、逃げは決まらず勝負は最後の5周回に持ち込まれた。トラック長距離での第一人者 円谷義広が集団をキープしておりそのスプリント力からゴール勝負になれば先月の国際ロード名古屋大会の再現かと観戦している多くのサイクルフアンは残り周回の展開に固唾を飲んで見守っていた。常に集団の前方に位置しレースを進めていた有力選手の逃げを許さない動き、チャンスがあれば自らアタックする構えで後半のスタート/ゴール地点の周回基点を通過していた。ラップは入れ替わりの選手でレースのすごさを物語っている。

年度 大会名 距離(Km) タイム 今回同距離比較タイム
1982 実業選手権 60 1:42.49 1:42.50
1983 全アマ選手権 80 2:25.50 2:18.24
1983 インターカレッジ 80 2:28.69 2:18.24
1984 実業団選手権 60 1:46.59 1:42.50
1985 実業団選手権 60 1:46.46 1:42.50
1985 インターカレッジ 80 2:23.44 2:18.24
1986 全アマ選手権 100 2:53.24 2:54.32
1987 実業団選手権 75 2:17.30 2:09.18

*第57全日本アマチュア自転車競技選手権ラップ

周回 ラップ 通過選手 スプリット  
1 7:51.00 佐藤稔    
6 8:51.35 三浦恭資 50:55.59  
10 8:47.47 村岡勉 1”25:02.30  
12 9:01.50 沼田雄一 1”42.50.38  60km時
13 8:50.76 徳竹隆幸 1”51:40.7  
15 8:49.82 沼田雄一 2”09:18.54  75km時
16 9:06.09 村岡勉 2”18:24.63  80km時
17 8:59:58 中込辰吾 2”27:24.21  
18 9:16.26 高橋松吉 2”36:40.47  
20 8:53.24 森 幸春 2”54:32.98  100km時
21 9:12.03 胡井良太 3”03:45.01  
22 9:47.70 大野直志 3”13:32.71  
23 9:05.37 鈴木光広 3”22:38.37  
24 9:45.41 円谷義広 3”32:23.78  33.9Km

最終回に入り10数人が先頭集団で通過した。殆どチーム別に見ると単独でアシストを当てにしてのレースの様相は全くなくなり、最終回のかけ引きで誰が有利な展開に持ち込み、ゴールを最初の通過するか役員席、スタンドも興奮の渦が巻いていた。最終回は飛び出すタイミングをお互い牽制したためこのレースでの最も遅いラップとなった。秀峰亭前の激坂を登り切りS字カーブの下りに入る選手団が見えた時には飛び出している選手なく一団となっての走行であった。

このままの体制で最後の下りを過ぎ、直線300mのフイニッシュまでのスプリント勝負は、大歓声にマイクで大声での放送もかき消された10数秒であった。

ロードスプリンターとして定評のある鈴木光広がスプリントに賭けては有利と思えた展開であった。ラスト100m鈴木が仕掛け先頭でゴールの向かった。6~8名の選手が横に広がり、トラックでのスピードに定評がる円谷選手が鈴木選手を差し切りトップで通過は僅差であったが、肉眼でも判定できたが・・・2位以下は全くの混戦。なだれ込んでのフイニッシュで写真判定を待っての結果発表となった。写真判定の結果成績は次の通り、上位3名の実力は昨年までの国内主要大会で立証済みで問題なくソウル五輪の代表に決定した。

1位 円谷義広(日本鋪道)  3”22:23.78
2位 三浦恭資(シマノ工業) 3”22:23.84”
3位 鈴木光広(ブリヂストン)3”22:23.86
4位 森 幸春(日直商会)3”22:23 .87
5位 大野直志(東北学院大学)
6位 清野慶太(日本鋪道)

選考大会の名のごとく上位3名が代表決定になったことは、すきっとした結果であった。
6位までなん19/100 秒である。ゴール勝負に加わった9位のタイム差は73/100 秒の激戦であった。

女子は40kmで行われた。
昨日のトラック・個人追い抜き準決勝で日本新記録を出したが決勝を欠場し、ロード優勝で代表権の獲得のため、満を持して臨んだ冬季オリンピックスケート代表の関ナツエ選手が、2位以下に水をあけての独走で優勝し文句なくソウル行きの切符を手にした。2人目の代表には一昨年のアジア大会で活躍し、その年全日本アマ選手権獲得、昨年アメリカ修行。本年の全日本選抜で1勝の実績がある2位の小倉輝美選手が選ばれた。本年の琵琶湖国際、国際ロードで安定した走りが認められたと思われる。

個人追い抜き種目ではヨーロッパ勢とのタイムの開きが大きく選手数の枠からロードを対象にしたのである。前回代表の阿部和香子選手は、7位で終わり残念ながら連続代表になれなかった。わずか3ヶ月の練習で五輪代表、しかも冬・夏連続出場の快挙を成し遂げた橋本聖子選手の出る女子スプリントは、ソウルから採用される種目。練習で出しているタイムから入賞の期待で報道が大きく取り上げ、自転車競技が脚光を浴びていた時期である。

1位 関 ナツエ(三協精機)   1”20:35.59 
2位 小倉輝美(高知・ヤマネ)  1”20:36.18 
3位 当麻 愛(手塚山学院大). 1”20:48.92.
4位 河西ひろみ(東京・日体大OB)  1”20:49.00
5位 山村佳代子(札幌・大丸物産)  1”21:22.98
6位 三田村由香里 (ミヤタ)      1”25:07.14

■男子ロード代表になった3選手

写真左から
鈴木光広(3位)ブリヂストン
三浦恭資(2位)  シマノレーシング 
円谷義広(優勝) 日本鋪道レーシング

著者:南 昌宏

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