ロンドン五輪の女子ロードレース・出場枠獲得の道:2012 London Olympic

※初出:ライジング出版・月刊Bicycle21:2011年1月号掲載
「UCI公認女子チーム・レースの立ち上げがカギ!〜ロンドン五輪女子ロード出場枠獲得への道を探る〜」
(これに2011.02加筆)                        
2012年はスポーツにとって最大の祭典が開催される「ロンドン・オリンピック(五輪)」。古くから五輪では自転車レースが正式種目として開催されてるが、2010年11月現在の国別ランジング順位のままでは、女子レースのロンドン五輪出場枠獲得が微妙な状況だ。そこで、女子ロードレースに焦点を当てて出場枠獲得の道を探りたい。

2012年7月27日から8月12日に、ロンドン市内を中心に26競技(ほか2競技が開催検討中)で「ロンドン・オリンピック(五輪)」がおこなわれる。このオリンピックは、夏季オリンピックとしては30回目の記念すべき大会であり、自転車競技はトラックとBMXがロンドン・ストラトフォードのヴェロパーク、マウンテンバイクのクロスカントリーがロンドン市内から南に行った先のウィールド・カントリー・パーク、そしてロードレースがロンドン北部にあるリージェントパークで開催の予定だ。

ロンドン市内ラッセルスクエア近くの公園。ロンドン五輪のロードレース会場となるリージェントパークも、このような緑深い落ち着いた雰囲気。ロンドン市内の大規模な公演は「ロイヤルパーク」という国の団体が管理している

ロンドン地下鉄で見かけた「LONDON自転車フェスティバル」の告知ポスター。エコを絡めたサイクリングなどが実施された
五輪メイン会場「オリンピックスタジアム」の建築も順調に進み、自転車レースの人気が比較的高い英国での五輪開催。そんな「ロンドン五輪」に出場したい!というのは、参加対象種目競技に携わる選手や関係者にとっては悲願であるだろう。2010年半ばに入ってから「五輪出場枠獲得」や「出場枠を逃す」などのスポーツ記事が目立つようになってきたが、国際オリンピック委員会(IOC)の日本支部(JOC)の公認団体である日本自転車競技連盟でも先日、この「ロンドン五輪」の出場枠獲得条件の文書が公開された。

2009年中旬に手に入れたロンドンの無料配布紙「METRO」。前日がツール・ド・フランス最終ステージだったため、ステージ優勝した英国が誇るロード選手カヴェンディシュが表紙に!

2009年中旬に手に入れたロンドンの無料配布紙「イブニングスタンダード」。この日(7月27日)はロンドン五輪まで、あと3年となった日であった
まず、種目についてだがロード、トラック、マウンテンバイクのクロスカントリーにBMXの4種目というのは、前回の北京五輪と変わらない。この中でトラック種目は男女種目数の「平等化」がおこなわれ、2009年末に国際自転車競技連合(UCI)が国際オリンピック委員会(IOC)に男女5種目ずつの実施を提案し了承。これにより、男・女オムニウム、女子ケイリン、女子チームスプリント、女子団体追い抜きが採用された。最近、「ガールズケイリン」の活動が活発化しているのも、この「トラック女子五輪種目の増加」が反映している。

ここでは、我がNPO法人サイクリスト国際交流協会で活動を支援している「Ready Go JAPAN女子ロードレースチーム」も目指す「女子ロードレース五輪出場枠」と「その獲得方法と対策」を的を絞って記したいと思う。
ロンドン五輪でのロード競技は男女ともに集団スタート(Mass Start)、タイムトライアル(Time Trial)が開催される。出場定員は男子が145名、女子が67名の合計212名。この中の「枠」に入ることが必須となる。これより女子ロード競技出場枠に絞った選考基準の説明を続けよう。

集団スタート(個人ロードレース)は2つの基準で出場枠が決まる。1つは「2012年5月31日付のUCI国ランキング」。このランキングの23位に入らなければ、この基準に漏れる。ちなみに女子は1位から5位:4名ずつ、6位から13位:3名ずつ、14位から23位:2名ずつの合計64名がここでの五輪出場枠選手数となる(別途、特別規定もあり)。
もう1つは「2012年5月31日以前の直近の大陸選手権大会順位」。これによりアフリカ大陸、アメリカ大陸、アジア大陸の各選手権大会1位の国から各1名、合計3名の枠を獲得できる。1つ目と2つ目の基準をあわせて総計67名。これがロンドン五輪での女子ロードの集団スタートレース参加可能人数となる。

一方、タイムトライアル(TT)は「自転車競技の総定数に包含され、集団スタート競技にエントリする競技者のみが個人タイムトライアルに参加できる」とある。ようは集団スタートのレースに出場する選手でないとTTに出場ができないのだ。しかもこちらも2つの出場基準があり「2012年5月31日付のUCI国ランキング1位から15位:1名ずつ=合計15名」と「2011年世界選手権大会によりエリート個人タイムトライアルで個人1位から10位までの1名ずつ:合計10名」の総計25名だけが、ロンドン五輪での女子ロードのタイムトライアルレース参加可能人数となる。

上記に出てくる「国別ランキング」というのは、まずUCI公認レース(オリンピックやワールドカップ、ツール・ド・フランス女子など)で個人が獲得した「UCIポイント」が、その選手の国籍に与えられて合計されてランキングが決まる(各国の上位5競技者が個人ランキングにおいて獲得したポイントの合算により与えられる)。そして日本において、女子ロードレース代表枠の獲得については今、非常に厳しい状況にある。そして2012年3月現在のUCI女子ロードレース国別ランキングにおいて、日本は「33位」。五輪出場枠に入る23位から遥かに離れてしまっている。現在23位にいるフィンランドの獲得ポイント91とのポイント差は49ポイントの42ポイントであるのが日本女子の状況である。

2004年、オーストラリアはジーロングで開催された女子ロードレース・ワールドカップで沖が3位でゴールした瞬間(写真左より3人目・当時ファームフリッツ・ホストル所属)

2010年ニュージーランドUCI公認レースに出場した日本ナショナルチーム。左より西 加南子、森田正美、豊岡英子。これにMTB日本女子最強の片山梨絵も出場した

日本女子ロードレース五輪代表派遣は、1984年のロス五輪から女子個人ロードレースが種目として採用されて阿部和香子選手(結果・40位)が出場したことからはじまった。このロス五輪以来、1988年ソウル五輪では小倉輝美(32位)・関ナツエ(50位)両選手が個人ロードレースの代表として出場、1992年のバルセロナ五輪で個人ロードレースに鈴木裕美子(51位)、1996年アトランタ五輪では女子ロードレースの出場はなく(MTB女子代表枠はあった)、2000年シドニー五輪で個人ロードレースに沖 美穂(41位)、2004年アテネ五輪で個人ロードレースに沖 美穂(39位)と唐見実世子(45位)、そして前回大会の2008年北京五輪で個人ロードレースに沖 美穂が出場(結果・31位)が出場している。そして2012年のロンドン五輪における女子ロードレース出場については、ロス五輪以来続いていた女子ロードレース代表出場選手が出せないという危機に立たされているのだ。   

上記の記録で注目してほしいのは、2004年のアテネ五輪である。この年の五輪には女子代表を2名送り込んでいる。これは開催年の前後に日本女子ロード選手が沖選手をはじめ、数名が海外の「UCI公認女子チーム」に所属し活躍することで「国別ランキング」に必須であるUCIポイントを獲得できるUCI公認レースに多く出場していたことにある。UCI公認チームはUCI公認レースの招待枠を優先的に獲得できるのだ(女子のUCI公認チームには、男子のようにプロチーム、プロコンチ、コンチなどのカテゴリー分けがなくUCI公認か非公認=クラブチームかのどちらかである)。
そして、そのような高いレベルのUCIレースで揉まれた選手が日本ナショナルチームの一員として出場する際にも、その実力を発揮していた(各国ナショナルチームはUCI公認レースの招待枠を比較的取りやすい)。その中でも特に沖選手は、最初に海外で所属したフランスのチームにいる頃から実力を発揮し、2004年の女子ロードワールドカップ・ジーロング(2010年のロード世界選手権の舞台でもあった)で3位、そして2006年の女子ロードワールドカップ・ジーロングでは2位という快挙を果たす。

2004年、オーストラリアはジーロングで開催された女子ロードレース・ワールドカップで3位となった沖美穂選手(写真一番右・当時ファームフリッツ・ホストル所属)

2006年、オーストラリアはジーロングで開催された女子ロードレース・ワールドカップで2位に輝いた沖美穂(当時ノビリメニキーニ・セライタリア)
ただ、沖選手が2008年に引退してから、日本女子選手でUCI公認女子チームに所属する選手は現在、1人もいない状況である。そのため、女子ロード選手のロンドン以降の五輪出場枠を増やすためには、以下の方法が考えられる。

・UCI公認女子チームを日本に設立する(これはReady Go JAPANチームの活動主旨でもある)。
このチームに日本国籍選手を多く所属させ、UCI公認レースでUCIポイントを集め、日本の国別ランキングを上げる。そのためにチーム選手の強化育成はシステマチックに長期的計画においておこなうことが必須。もちろん、UCI公認レースの招待権を得やすいナショナルチームのレース派遣も多いことが望ましい。
問題点:チーム運営資金が最低でも1年間に3000万円が必要である。女子自転車ロードレースの一般的知名度がまだ低いため協賛を得ることが難しい。
解決方法:女子自転車ロードレースの世界を広くPRし一般社会に普及させること。これにより協賛を得て、資金が潤沢になることでチーム活動が活発化し、選手の強化育成も十分おこなうことが可能となる。さらに選手たちが、強くなる過程をPR・広報することで、また新たな普及の輪を広げられる。

・UCI公認女子ロードレースを日本で開催する。
現在、日本に女子のUCI公認ロードレースは開催されていない(他自転車種目の女子レース開催もない)。男子についてはジャパンカップやツール・ド・北海道、TOJなど多くのワンディやステージのロードレースがおこなわれている。そこで、既存の男子ロードレースの「裏番組」として女子UCI公認レースをおこなう、もしくは新規で女子UCI公認レースを開催する。これにより、地元日本では多くの女子選手が出場し、UCIポイントを獲得するチャンスが増える。もちろん、上位に入らなければ高いUCIポイントを獲得できないので、地元で開催することで選手を奮起させる効果もあると考える。
問題点:UCI公認女子レースは、男子ほど体制を整える必要はないが、最低限の準備が必要。さらにUCIルールにのっとったコースレイアウトが日本国内で取れるかがカギとなる。
解決方法:地元の方々と協力し「お祭り」としてロードレースを活性化するように準備をおこなう。多くの方々が楽しめるような「日本ならでは」のコースを含めたロードレース企画を実現する。そのためにも、競技ルールについては日本自転車競技連盟が今までとおりコントロールし、興業面はその道のプロを入れることでPRや広報に力を入れ、良い出場選手を集めた「魅せられるレース」作りが実現するように思う。

昨今、スポーツ自転車の注目が高くなっている。先日のサイクルモードなども多くの方々が来場されていた。しかし今までに前例ない「関心を高めるスポーツマネジメントと興業」そして「日本が応援できる選手・チーム作り」など新コンテンツの導入・実施により、自転車をブームに終わらせない「文化」として根付かせるために必要なことと考える。

日本は五輪=オリンピックが大好きである。ただ4年に1度の開催ということは、その4年間にしっかりと強化育成し、その過程を広く見せるなどおこなわないと、これを怠った種目についてはその場限りの打ち上げ花火で終わってしまう。会期中、長く燃える聖火のような地道な努力と実現を絶え間なくおこなうことが、私の法人を含めて今、必要なことなのだ。
(TEXTおよびPHOTO:NPO法人サイクリスト国際交流協会・須藤むつみ)

1998年ニュージーランド女子ロードレースで日本を応援する地元の小学生たち。このような場面が国際レースでは実現できる

1998年ニュージーランド女子ロードレースの遠征。ナショナルチームでなくクラブチームや学連選手が集まって2チームが出場。写真中央は当時の女子ロード世界選手権覇者のバーバラ・ヒューブ(スイス)

ロンドン五輪:関連リンク

ロンドン五輪をはじめ、国際試合出場の窓口でもある日本自転車競技連盟のサイトです。正式な五輪出場基準の文書も掲載されてます。
国際自転車競技連合のサイトです。こちらには国別・個人ランキングが発表されております。
日本のロード女子ランキングは、こちらから!
マウンテンバイクXCでロンドン五輪を目指す片山梨絵選手のロンドン五輪専用サイト。マウンテンの代表選考について知りたい方はぜひ!

参考資料:ロンドン五輪・自転車ロード競技における代表選考基準

ロンドン五輪のロード競技
*種目
男女ともに集団スタート(Mass Start)、タイムトライアル(Time Trial)
*定員
男子が145名、女子が67名の合計212名
*競技者の適格性
すべての競技者は現行のオリンピック憲章の規定に従わなければならず、オリンピック憲章に従っている競技者のみがオリンピック競技大会に参加できる。

<女子ロード基準に絞った選考基準の説明>

@集団スタート(Mass Start)
*基準1:2012年5月31日付のUCI国ランキング
1位から5位:4名ずつ
6位から13位:3名ずつ
14位から23位:2名ずつ
上記の合計:64名
※特別規定
・2012 年5 月31 日付けUCI ワールド・個人ランキングの100 位までに競技者がいる各NOC は,1 枠を与えられ
る.したがって,基準1 により参加資格を得たNOC は,最大競技者数64 を尊重するために,2012 年5 月31 日
付けUCI ワールド・国ランキングの逆順で,配分された割当てを1 枠削減される。
・ツアーの個人ランキングに従って(特別規定5)参加資格を得たNOCの数が,同じツアーで基準1により参加資格を得たNOCの数を超えた場合,個人ランキングにより参加資格を与えられる国数は,基準1に従い参加資格を得た国数のランキング順に決定される。

*基準2:2012年5月31日以前の直近の大陸選手権大会順位
アフリカ大陸、アメリカ大陸、アジア大陸の各選手権大会1位の国:各1名
上記の合計:3名

基準1+基準2=計67名<これがロンドン五輪での女子ロードの集団スタートレース参加可能人数

@タイムトライアル(Time Trial)
*参加資格枠
タイムトライアル競技の参加資格枠は,自転車競技の総定数に包含される.集団スタート競技にエントリする競技者のみが個人タイムトライアルに参加できる.不可抗力の場合(落車,疾病等),他の自転車競技分野の競技者が個人タイムトライアルの参加が認められる。
A:2012年5月31日付のUCI国ランキング1位から15位:1名ずつ=合計15名
B:2011年世界選手権大会によりエリート個人タイムトライアルで個人1位から10位:1名ずつ:合計10名
A+B=計25名<これがロンドン五輪での女子ロードのタイムトライアルレース参加可能人数

<参加資格の時系列>
日付:摘要
大陸選手権大会(日程未定):アジア、アフリカ、アメリカ(場所未定)
2012年6月1日:女子エリートランキングの決定、
およびUCIによる女子参加資格枠獲得数をNOC(各国のUCI傘下の自転車競技連盟)に確認しなければならない期限
2012年6月15日:NOCによる、獲得女子枠の行使を確認しなければならない期限
2012年7月7日:未使用女子割り当て枠の再配分
2012年7月9日:2012年ロンドン組織委員会のエントリー・フォーム受領期限

このため、ロンドン五輪のためのUCIポイント獲得の期限は実質、2012年の5月31日までとなる。

UCIポイントの獲得方法

・個人ランキング
このランキングは,獲得されたポイントを前回のランキングに加算して,少なくとも月1回作成される.同時に,前年の同日までのポイントが差し引かれる.必要であれば,前月のランキングが訂正される。新しいランキングは発表の日より発効し,次のランキングが発表されるまで有効となる。
競技者間でポイントが同点であった場合,女子エリート・ランキング対象の前年中に行なわれたレース順位において,1位数,2位数,等々の多寡を考慮して決定する。
さらに同順位となった場合,もっとも最近のレースにおいて高順位であった競技者を優先する。
ステージ・レースについては,最終の個人総合時間順位のみをこの条項の適用において考慮する。

・チーム・ランキング
UCI女子チームのランキングは,個人ランキングにおいて上位4名の競技者が獲得したポイントの合算により与えられる。

・国ランキング
国ランキングは,各国の上位5競技者が個人ランキングにおいて獲得したポイントの合算により与えられる。
国間で同順位になった場合,エリート女子個人ランキング上位5競技者が前年中に行なわれたレースの(最終総合時間)順位において,1位数,2位数,等々の多寡を考慮して決定する。
ある競技者のポイントは,他国のライセンスを所持していたとしても,その国籍の国に与えられる。

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